真夏の蚤の市

一年前の今日、8月15日、イタリアの祝日にだけ開催される蚤の市にいた。

いつのことだったか、骨董市の店主であるシニョーラにリグーリアに近いところで祝日のみに立つ市があって雰囲気もとてもいいからぜひ行ってごらんなさい、と勧められたことがあった。

店を出している人が楽しんでいるのだからおもしろい蚤の市であることがうかがい知れて楽しみにしていた。

気になっていたので足を運ぶ機会をうかがっていたのだが地理的に難しい位置にあるのでなかなか機会に恵まれることはなかった。
行政上はピエモンテ州に位置する街だけれども拠点はリグーリア州方面からアクセスしやすそうである。

実際に行ってみてわかったことは、街のパン屋さんや惣菜屋さんもリグーリア州寄りのメニュウであったりした。

ようやく機会を得た一年前の夏、ジェノヴァ駅を出発し、ほぼその一年前に落下したモランディ橋の遺構に手を合わせながら急峻な崖のようなところを走るローカル線に揺られていく。

度々くぐるトンネルに通信も車窓も途絶え途絶えで、ただ降りる駅は間違えないようにとぼんやりと椅子に座っている。

途中、出口とだけ書かれた看板がある小さなプラットホームのすぐ脇に家々がびっしりと並んでいる風景は遠くに見える海と合い重なって江ノ電を思い出させた。

訪れたことのない街、とりわけそのランドマークの姿すらも知らないところへ行くのはわくわくする。

駅を降りて新しい住宅街を歩いて行くとぽつりぽつりと古い建物が見えてくる。気分が高揚してくる瞬間。

そして並べられている骨董たちが見えてくるともう早足になってやがて走っている。ヴァカンスの時期とも重り静かな夏の盛りのイタリアの祝日も歴史的地区だけはお店も開いており街の大きさからは想像できない人出であった。

あちこで祝日を祝う挨拶が交わされている。
こちらもお別れの挨拶がわりにいつもの「よい一日を」に代わってよい祝日を、と言ったりしていた。

とある骨董店主に、日本でも聖母被昇天を祝うのか問われた。日本では8月15日は終戦の日となっていることを説明するとおっとっとそれはそれは、といったような風で、なにはともあれお互いの国は今は戦争のない時代でよかったよ、と話を終えた。

面白い古いものをたくさん持っている店主であとは楽しいものの話になってお別れしたけれど、あれから一年のうちに、世の中がこんなに変わってしまうとは思わなかった。

その後、この位置で会った人々に他の街でも出会うことになり、こちらのイタリアのカフェ愛を知った人からはピエモンテにあるローカル企業のコーヒーをいただいたり、あまりの荷物に駅まで送ってもらったりと真夏の蚤の市はよい思い出として残っている。

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